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デナトロンおにぎりからの学び

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2016/06/13

成功の種 Vol.1

ノーベル賞でも有名になった導電性ポリマーは、ポリアセチレンの重合条件を間違えたことがきっかけで発見・発展に繋がり、いまや様々な分野で活躍しています。

研究・開発を行っていると、時には失敗もあります。失敗しても成功につながる種として前向きに捉え、次に花を咲かせるべく歩み続ける研究者をインタビューしました。

機能化学品事業部 M・Tさん

入社後、剥離剤、エッチャントの開発業務に就いた後、デナトロン(導電性ポリマーコーティング剤)の開発に従事。デナトロンを使っての熱線(遠赤外線)反射用途検討に注力し、帯電防止用途、透明電極用途などにも関わる。
その後アクリルポリマーの開発に従事している。重合開発から配合開発まで幅広い経験を持つ。

遠赤外線反射用途からの発想

―Mさんは失敗したなって思った実験とかはありますか? (記者)

前置きになるんですが、元々僕がやっていたテーマで、遠赤外線反射用途デナトロンの開発があったんです。
PEDOT:PSS(導電性ポリマー)が原料であるデナトロンを塗ったフィルムを窓の内側に貼ると、室内のエアコンなどで発生した遠赤外線を反射して、室内の熱を逃がさず、省エネ効果が期待できます。こういった断熱フィルム用途は銀などの金属薄膜が使用されていることが多いのですが、金属では通信電波を反射してしまい、電波障害が起こる可能性があります。デナトロンは通信電波を透過する性質があるので、電波障害が起こりにくいという利点があるんです。

そんな窓用途の応用として考えたテーマなんですが、デナトロンは電子レンジで使われるマイクロ波も通して、遠赤外線を反射して断熱効果もあるので、冷凍食品の袋に使ったら早く暖まり、時間短縮できるんじゃないかという検討があったんです。

デナトロンおにぎりを作成し、いざ実験・・・

早速、包装用フィルムにデナトロンを塗って、冷凍食品のおにぎりを包み、レンジで加熱してみたんです。すると・・・

図 : 電子レンジ加熱前後

フィルムがみるみるクシャクシャになり、一部は溶けて、破れた状態になっていました。デナトロンを塗った部分が温まりすぎて、フィルムの方が持たないという結果になってしまいました。

図 : 一瞬で溶けたデナトロンフィルム

検証のためおにぎりを入れず、デナトロンを塗ったフィルムだけレンジにかけたら、一瞬でフィルムが溶け始め、煙と焦げ臭いにおいが立ち込めて焦りました・・・。
もちろんレンジはきちんと掃除しました・・・。

そして肝心のおにぎりも、表面の温度は何も塗ってないよりは温まったのですが、中身の温度はあまり変化がなく、期待したほどの効果は得られませんでした。

なぜ失敗したのか?

―フィルムが焦げかけ、なおかつおにぎりもあまり温まらなかったと、踏んだり蹴ったりですね。なぜ予想に反し、そんなことになったんでしょうか?

まず、フィルムが耐えられないほど熱をもった理由は、マイクロ波がPEDOT:PSSに一部吸収されており、熱が発生していると考えられました。吸収の程度は10%以下なのですが、それでも厚さ数μmのデナトロン膜には、一瞬でフィルムが溶ける位の熱量がかかっていたことが分かりました。

アイデアのきっかけにもなった窓用途だと、10%の反射・吸収は無視できる位影響はなく、「電波透過」という表現だったのですが、加熱目的でマイクロ波をかけるレンジ用だと、その10%が非常に影響あるということが分かり、ちゃんと用途に沿って設計を考えることは大事だと思いましたね。

そして思ったよりおにぎりが温まらなかった理由は、フィルム内部で発生した遠赤外線はおにぎり表面にしか作用せず、熱が伝わる効率が悪かったと考えられました。
赤外線の届く深さを計算した所、おにぎり表面から数μmで吸収されて熱に変わり、外側だけ温められている状態でした。おにぎり内部にまで届くマイクロ波と比べると熱効率が悪く、劇的な効果がなかったのも合点がいきましたね。

ちなみに、世間では「遠赤外線効果で身体の中まで温まる」と言われ、あたかも内部まで遠赤外線が届くイメージがありますが、実際は皮膚から数μmの所までしか届かないので、誇張であり、間違ったイメージだと分かりました。

このことから、用途を把握することの大切さと、情報の真偽を把握することの大切さを身にしみて学びましたね。

―現象のメカニズムを解明して、教訓を得たんですね。そこまで深堀りしていると後々の開発にも繋がりそうですね。
赤外線の話とか勉強になりました。岩盤浴で、よく内部まで均一に温まるという文言を信じてたのですが・・・。

それは嘘です(笑)皮膚が温められて血行が良くなり、温まる効果はあると思いますけどね。

原料の原料まで目を向ける

―デナトロンでの実験談を聞かせていただき、ありがとうございます。
今ではデナトロンの開発から部署が変わり、アクリルポリマー(テイサンレジン)の開発に携わるなど、いろいろな経験しているMさんですが、勉強になったと思うことは?

役に立つ事はありますね。装置の使い方とかの実務以外では、用途を知っているとか。

デナトロンでは光学系用途が多かったんですけど、他部署でもそういった用途向けだと抵抗なく取り組めますね。

でも一番は配合開発と原料開発を経験できたので、お互いの気持ちが分かるようになったことですね。

アクリルポリマーを自分で重合することによって、作り方によってどの物性が振れるのか、使うモノマーによってどういう違いが出てくるか、ということをより深く考えるようになりましたね。

今は原料を配合メーカーに紹介する立場になって、物性は聞かれるんですが、どういう原料を使ってるとか、製造工程はあまり気にされてないのかなと感じる時はたまにあります。
僕も配合しかやっていなかった時を振り返ってみて・・・へこみましたね。物性だけ見て、原料メーカーからあまり深い話を聞けてなかったなと。
でもそれが分かっただけでもプラスだなと思います。実感できたというか。配合メーカーの気持ちが分かるので、原料紹介の時に話もしやすくなりましたしね。

先輩達は合成にも精通している人も多いので、製造工程なども把握して進めていると思います。

配合物性が良いから売れている商品もあるかと思いますが、構造が良いから売れた、という背景もあるので。課題解決の可能性を広げるためにも、配合だけに頼らず、過程にも目を向けて、総合的な技術基盤を作ることが必要だと思いますね。

あとがき

実体験を通して、メカニズムの解明、配合原料やその作る過程から考える大切さを振り返ったMさん。
これからもナガセケムテックスでは原料を含めトータルで考える精神を大切にして、さまざまな角度からのアプローチで良いもの創り上げていきます!

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