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導電層転写技術の開発まで -密着性の不思議-

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2016/10/18

成功の種 Vol.2

ノーベル賞でも有名になった導電性ポリマーは、ポリアセチレンの重合条件を間違えたことがきっかけで発見・発展に繋がり、いまや様々な分野で活躍しています。 研究・開発を行っていると、時には失敗もあります。失敗しても成功につながる種として前向きに捉え、次に花を咲かせるべく歩み続ける研究者をインタビューしました。

機能化学品事業部 Kさん

入社後、基礎研究に近いステージで、新規高耐熱樹脂の開発や特殊ナノ粒子コーティング剤の開発、新規導電材料の開発に携わった後、デナトロンのカスタマイズ開発に従事。
※本人の希望により写真はNGでした→

難密着性基材向け帯電防止剤での壁

―Kさんはデナトロンの開発において、何か失敗や苦労はありましたか?(記者)

そうですね、色々な用途向けの開発を行ってきましたが、ご要望の性能を満たせず、ペンディングとなってしまったテーマもありました。

詳細は言えないのですが、ある難密着性基材に帯電防止層を付与したいという依頼がありました。
その難密着性基材に対し、デナトロンコーティング層の密着性を付与するのには苦労したのですが、なんとか要求の密着性を出せるサンプルができ、先方の1次評価でOKをもらうことができました。

しかし、次のステップであるデバイス評価に進んだところ、デナトロン層が難密着性基材から剥がれてしまうといった結果が返ってきました。

図:評価イメージ

デバイスの構成を開示頂けていない状況でしたので、サンプルの再調整を何度も行い、ご依頼先と打ち合わせを重ねました。
その取り組みにより、デバイスの構成がある程度予想できるようになり、自社でもデナトロン層が剥がれる現象を再現することができるようになりました。
更に検討を重ね、特定の接着剤を特定のデナトロン層に積層すると密着性が低下するという現象のメカニズムを掴めたところでテーマがペンディングになってしまいました。

本件に限ったことではないですが、より良い製品を短期間で開発するには、デナトロンを直接製膜する基材の情報だけでなく、製品全体の構成や製造プロセス、使用方法等をきちんと把握することは大事だと改めて感じました。

―なるほど、先方のノウハウ部分があったりすると周辺情報の開示は難しいケースもありそうですが、可能な範囲だけでも開示していただけると非常に開発には有用ですよね。

‘転写’する発想

―おっしゃった開発案件はペンディングになってしまいましたが、そこで得られたものはあるのでしょうか?

全く別の開発案件ですが、ある機能性フィルム上に帯電防止層を付与させたいが、フィルムが弱く、直接塗工することはできないという制約がありました。
そこで、デナトロン層を一旦剥離フィルム上に製膜した後、機能性フィルムに転写するという工法をとることになりました。
しかし、量産を想定すると、デナトロン層には剥離フィルムへの密着性も必要であり、密着性と剥離性のバランス取りに苦心していました。

図:転写工法イメージ

その時、前述の密着性変化のメカニズムを思い出し、この工法にも応用できるのではないかとトライしてみました。

結果は予想以上で、それまで使っていた特殊な剥離フィルムではなく、汎用の未処理PETフィルムを用いても十分な密着性と剥離性の変化を生みだすことができ、斬新な転写技術を得ることができました。

汎用の未処理PETフィルムを使用できるようになったことから、この転写技術を他の用途にも展開していけるものと期待しています。

例えば、ウェアラブル電極用途の場合、布などの凹凸があり、直接パターニングが難しい素材でも、PETフィルムにパターンを印刷し、転写することが可能になると思われます。

もし導電層の転写技術に興味をお持ちの方はご相談いただければと思います。

このように、1つのテーマは製品化まで行かなくても、そこで得た知見を活かして別のテーマにつなげる、といったことを行うために、「なぜそうなったか」を考えることは大事にしていますね。

また、使用方法によってはうまく性能が出ないこともあるので、お客様との対話を通じて信頼関係を築き、詳細を聞いたうえで開発を進めるのは大切だと考えています。

あとがき

テーマペンディングという苦い経験をしながらも、それを新しい開発につなげる、まさに成功の種といった事例を語ってくれたKさん。うまくいかなくても「なぜそうなったか」を常に考え、メカニズムを解明したからこそ新しい製品ができたのだと思います。

また、ナガセケムテックスでは、単に言われたことだけやるのではなく、こちらからも最善策を提案できるメーカーであるために、お客様との対話を大切にしています。より良い製品を作るため、共に考え抜きますので、ご相談ください。

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